研究紹介

研究室理念

  • ・自分の過ごしやすい環境を自分で作る(謙虚さが重要)
  • ・おもいやりを育む
  • ・上記の事柄を、最先端研究を進める中で見つける

研究テーマの概略

機械の振動騒音の低減つまり静粛性は,例えば最近の家電製品の宣伝で「騒音43dB!」などと専門的な文句が使われるほどまでに,機械の性能と同様に重要な商品価値として位置づけられてきている.そもそも世の中にあるほとんどの機械は,その目的に応じた機能を発揮するために何らかの運動をするわけだが,その際,必ずと言っていいほど運動と共に振動や騒音が発生してしまう.振動や騒音が発生すると言うことは,機械そのものの働きを阻害することもあり,エネルギを無駄に消費しているとも言える.一般に機械の設計は,性能,耐久性,安全性などをもとに行われ,振動騒音を考慮した設計は一般に困難であるため,機械が出来上がった後に実験的に対策されることが多い.そのため,開発期間の長期化,実験に用いる資源の浪費などが問題となり,コンピュータ上でバーチャルに設計,開発,対策が検討することが近年強く望まれている.
 本研究室では,機械の運動そのものからそれに伴う振動騒音の予測及び解決策までの一連の機械の設計開発における種々問題を研究している.最近の対象機械としては,自動車,船舶,鉄道,産業機械などであるが,問題事例と手法そのものを対象としているため,対象機械の限定は無い.

実験SEAを用いた固体音低減プロセス

複雑な対象機械をそのままで、問題の現状把握、問題個所の特定、対策方針を導き出すことができる。

本技術は、ソフトウエアとしてすでに市販している。

★本プロセスの特徴 ★本プロセスの拡張
複雑な実際の機械をそのまま扱える 機械騒音の寄与度解析(空気音、固体音、流体音など)
短い時間で問題理由が分かり、対策箇所の特定ができる 衝撃問題への適用
減衰させる、振動を伝えやすくするなど分かり易い対策方針が策定できる エネルギー分布モデルによる全ての対象への適用範囲の拡大

適用機材の例


振動音響エネルギーの流れに基づく振動騒音の少ない構造設計手法の開発

機械の振動騒音を低減させるためには、振動源および音源で対策することが最善である。しかし、源となるモーターなどの対策は高価であり、たとえモーター単体で静かでも設置すればうるさくなくなることが多い。一方、放射された音の対策は、機械全体および空間が対象となるため効率が悪い。よって機械の振動騒音を低減する次善策は、伝搬経路での対策、すなわち、構造を変更することとなる。

例えば、

  

のようにエンジンの振動を車室内で放射させず、ボディを伝わる振動を構造形状によってコントロールして、トランクルームまで運びそこで放射させれば、車室内は静かにできるであろう。このような考え方は今までにないものであり、本研究室のオリジナルなものであり、自動車会社と連携して研究を進めている。    

は、自動車のドアパネルを伝わる振動エネルギー、つまり、振動インテンシティを計測した結果の一例を示す。このように、どのように振動が伝わっているかを知ることができる。

改造マフラー着用車規制技術の検討

現在販売されている自動車は厳しい騒音規制に合格したものであるが、改造マフラーの着用によりうるさい自動車が世間に溢れている。これを規制するために、警察が街頭試験を行っているが、その試験には合格するが、実際には走行するとうるさい車両が増えてきている。

そのため     

に示すように、排気騒音のシュミレーションパッケージを開発すると共に、警察が簡単に街頭でうるさい車を判定できる新しい騒音試験法の開発を行っている。

時間ー周波数分析による各種現象把握とモデル化

機械システムに生じる瞬間的な衝撃や過度現象に対する周波数解析を行うために、デジタルフィルタ処理技術を検討している。デジタルフィルタによる一連の解析手法(以降、時間一周数分析手法と称す)は、フィルタ処理を施すことにより、FFTでは解析が困難である振動発生のタイミング、周波数、および振幅変化などの過度現象への適用を考慮にいれている。そのため、時間一周波数領域で実際に生じている振動現象を把握することが可能となる。また、解析結果は時間軸と周波数軸に対する振幅として、三次元的に表現されるため振動現象の視覚的な理解も得やすい。したがって、解析の手順として、時間一周波数分析手法により過渡状態から定常状態に至るまでの現象を明らかにしたうえで、必要に応じてFFTによる定常振動の解析、あるいはSTFT(短時間フーリエ変換)やWT(ウェーブレット変換)による過渡現象の解析を行うことが効果的であるといえる。しかも、時間一周波数分析手法は、WTにおけるマザーウエーブレットなどの窓関数の選定を必要としないため、解析結果が一意に求まる。このような背景のもとで、本研究の主たる目的は、機械システムの過渡状態を含む振動現象を時間一周波数分析手法により解析し、振動現象そのものを把握するだけでなく、その振動モデルの構築方法を確立することにある。

                     は、正弦振動にインパルス状の衝撃が加わった現象を時間一周波数分析した結果である。正弦振動の周波数および衝撃が加わった際に全周波数の振動が励起されていることがわかる。

また 

                      は、1自由度減衰振動系の強制振動応答の分析結果であるが、固有振動数が短時間で消失(自由振動)する一方、強制振動数はずっと励起されている(強制振動)ことが視覚的に理解することができる。

楽器から学ぶ機械の静穏化

実験SEAを用いた固体音低減プロセスによる振動エネルギーの伝搬解析から、ヴァイオリン構造を考察し、その知見を機械構造物の振動騒音設計に活用することを目的としている。これまでに、ヴァイオリンの実験SEAモデルを構築するための実験方法について検討し、二種のヴァイオリンの実験SEA解析を実施した。二種の解析結果の比較により、よりよいヴァイオリンとして以下の三つの知見を得た。          知見①  胴体(表版および裏側)の減衰は小さい。                        知見②  胴体への入力パワーの周波数分布は、分布に近い。                    知見③  表版の振動エネルギーは、魂柱だけを介して裏板へ伝達される。              知見②は、無限系への入力ということから、一方向の振動伝搬を意味する。また知見③に関する検討によりヴァイオリンの魂柱のわずかな位置の違いによって表版から裏版への振動伝搬を変更させることができる。現在、この二つの振動伝搬を機械構造物の振動騒音問題の解決に利用すべく、基礎的な検討を行っている。